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どうすれば新入社員の早期退職を防げるのか?

  • 執筆者の写真: さくら総合研究所
    さくら総合研究所
  • 8月4日
  • 読了時間: 8分
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はじめに

現代の企業にとって、新入社員が早期に離職することは依然として重要な課題です。一般的に、入社後3年以内の離職を早期離職と呼びます。早期離職が増加すると、採用や教育にかかったコストが損失となるだけでなく、企業の外部からのイメージや評価が低下し、今後の採用活動に悪影響が出たり、既存社員のエンゲージメントやモチベーションが低下したりするといった様々なデメリットが生じます。早期離職の原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていることが多いため、多角的な視点からの対策が求められます。



1. 早期退職の主な理由


早期退職の主な理由として、以下の点が挙げられています。


① 仕事内容や職務に対するミスマッチや不満

入社前のイメージと入社後の現実のギャップ(リアリティショック)も含まれます。また、自身の技術や能力が活かせないことも理由となります。

② 上司や同僚との人間関係の悪化

特に直属の上司との関係性や職場全体の心理的安全性は、若手職員の離職意思に影響を与える傾向があることが研究で示唆されています。上司や同僚に本音を打ち明けにくいといった「相談者問題」も離職の要因となり得ます。

③ 勤務時間や休日などの労働条件の悪さ

長時間労働や休暇が取得しにくい環境などが含まれます。

④ 給与や昇給などの賃金の少なさ

仕事の成果に見合わない給与などが理由となります.

⑤ 仕事のノルマや責任の重さ

過度なノルマ設定は心理的ストレスにつながる場合があります。

⑥ 会社の将来性が感じられない点

会社のビジョンが不明確だったり、キャリアアップの機会が少なかったりすることが含まれます。

⑦ 新入社員世代の価値観との衝突

刹那的、我慢しない、タイパ重視といった価値観が、従来の長期的な視点と合わない場合があります。

⑧ 日本の将来に対する期待・希望の希薄さ

マクロ的な不安も個人のキャリア形成へのモチベーション低下につながり得ます。

⑨ 成長を感じられない

過度に新入社員に配慮をしすぎた「ゆるい」環境で、成長を感じられない。


2. 早期退職防止のための対策


これらの理由を踏まえ、早期退職を防止するためには、以下のような多角的な対策が効果的です。


(1)採用・入社前段階での対策


①リアリティの提示:採用段階から、実際の業務内容、職場の雰囲気、課題なども含め、現実に即した情報を正直に開示することで、リアリティショックを防ぎ、入社後のギャップを最小限に抑えます。応募者を集めるための美辞麗句だけの会社情報は、リアリティショックにつながるだけでなく、会社評価を下げる可能性があります。


②適性検査の活用:応募者の性格や価値観、仕事への適性を把握し、自社に合った人材を選考することで、ミスマッチを防ぎます。どんなに優秀であっても、自社の組織風土や文化にあわない応募者であれば早期退職につながりかねません。


③内定者段階からのキャリアプラン教育・研修:社会人としての自覚を促し、企業でのキャリア形成に対する現実的な期待を持たせます。実務感覚を養う現実的な問題解決訓練やストレスマネジメント研修は、社会人としての「免疫力」を養うのに有効です。


(2)職場環境・文化の改善


①人間関係の改善と心理的安全性の確保:定期的な1on1ミーティングは、上司と部下が仕事上の課題やキャリアについて話し合い、関係性を築くのに役立ちます。ただし、上司と部下の信頼関係および上司の「聴く技術」が必要となります。1、2回集合的なコーチング研修を開催したから大丈夫だろうと思うのは危険です。結局、形式的なミーティングは双方にとって時間的にも精神的にもストレスになり逆効果になりかねません。

そういう点では、社外相談役やメンター制度の導入は、利害関係のない相談先を提供し、「相談者問題」に対処する方法として有効かもしれません。風通しの良いオープンなコミュニケーションは、不安や疑問を解消し、心理的安全性を育みます。


②成長機会の提供:キャリアパス制度の整備や研修・教育制度の充実は、従業員の成長意欲を高め、長期的なキャリア形成を支援します。挑戦を奨励する文化づくりも重要です。


③公平な評価・報酬制度:明確な評価基準の設定と共有、評価に対するフィードバックの充実、成果や能力に応じた報酬体系は、従業員のエンゲージメントと定着率向上に貢献します。


④柔軟な勤務体制の導入:リモートワークやフレックスタイム制度、時短勤務などは、多様な働き方を可能にし、仕事とプライベートの両立を支援します。


⑤社員の能力発揮と業務分担:社員の特性を分析し、能力を最大限に活かせる業務に従事させることや、適切な業務量に調整することが重要です。


⑥会社のビジョン共有:会社の将来のビジョンや経営陣の考えを共有することで、社員は会社への理解と信頼を深めることができます。


⑦健康経営の推進:ストレスチェックやメンタルヘルス対策を含む健康管理は、従業員が安心して働ける環境を整え、企業への忠誠心を育みます。ただし、ストレスチェックを実施していれば安心というわけではありません。結果を確認して満足してしまうだけで、メンタルヘルス対策に結びつけることができていない企業は少なくありません。調査と同時に制度や施策の具体的な実施の両輪をまわしていくことが必要となります。


⑧労働契約の見直し:労働条件が市場ニーズに合致しているか見直し、従業員のニーズを反映させることで、安心して働ける環境を整備します。


(3)モニタリングとサポート


①オンボーディングによるフォロー:入社後の社員を継続的にフォローし、定着を支援します。


②従業員満足度・エンゲージメントの定期的な調査:定期的なアンケート調査やパルスサーベイ(高頻度での調査)により、社員の心理状態やエンゲージメントの変化を素早く察知し、一人ひとりに合ったケアやサポートを行います。


③アセスメントツールの活用:組織アセスメントのようなツールは、従業員の自己理解を深めるだけでなく、上司が部下の行動特性や考え方を客観的に理解し、具体的な対話や成長サポートを行うのに役立ちます。上司が経験則だけでなく客観データに基づいてアドバイスできるため、若手社員の成長を後押しする重要なツールとなります。多様な人材を生かす組織づくりにも有用です。


④フィードバックの活用:従業員からの意見や提案を積極的に受け入れ、改善に繋げる文化を醸成し、改善案を迅速に実施する体制を整えます.



3. エンゲージメント向上の重要性


早期退職防止において、エンゲージメントの向上は非常に重要な要素です。エンゲージメントとは、単なる従業員満足度やロイヤルティ(忠誠心)よりも複合的で広い概念であり、企業と従業員の良好な関係度合いを示します。


エンゲージメントが高い従業員は、会社や仕事に強い愛着と誇りを持ち、長期的な定着につながります。研究結果は、エンゲージメントスコアが高い企業ほど離職率が低い傾向にあること、特にメンバー層だけでなく、管理監督を担うミドル層の退職率低下にも寄与することを示しています。これは、将来の幹部候補であるミドル層の流出を防ぐ上で重要です。


エンゲージメント向上は、短期的な対症療法ではなく、組織の体質改善のようなものであり、継続的に取り組みを繰り返し行うことが必要です。現状の調査、分析、改善アクションのサイクルを回し続け、表面的な結果だけでなく、回答率の低さやスコアの小さな変化、背景にある見えない課題にも注目することが大切です。



4. 結論


新入社員の早期退職は、企業にとって人材とコストの損失に繋がる深刻な問題です。その原因は、仕事内容のミスマッチ、人間関係、労働条件、給与、成長機会の不足、企業への将来不安など、多岐にわたります。


早期退職を防止するためには、採用段階でのリアルな情報提供や適性確認から始まり、入社後の人間関係構築支援(1on1、心理的安全性、メンター制度など)、成長機会の提供、適切な評価・報酬、柔軟な働き方の導入、健康管理、そして従業員の声を継続的に把握するためのサーベイ活用やフィードバックの実装など、多角的かつ継続的な取り組みが必要です。


特に、社員のエンゲージメント向上は、離職率低下に大きく貢献する可能性が高く、組織にとって最重要課題となり得ます。エンゲージメント向上に向けた組織的な体質改善は、新入社員を含む従業員一人ひとりが心身ともに満たされ、仕事への意欲や会社への愛着を持ち続けるための土台となります。


これらの取り組みを通じて、社員が自身の可能性を感じ、安心して成長できる環境を整えることが、新入社員の早期退職を防ぎ、企業の持続的な成長に繋がる鍵となるでしょう。

「エナジャイザー」は、入社時の適性診断として、企業とのマッチング度の測定に役立ちます。また、企業のアセスメントツールとして社員一人ひとりの特性を把握し、社員のポテンシャルを開花させるマネジメントのヒントのご提供が可能です。ご興味がありましたら、ぜひお問い合わせください。

以上



【著者情報】

株式会社さくら総合研究所 シニアディレクター 菅野敏

資格:シニアコンサルタント ・キャリアコンサルタント


大手損害保険会社の営業職から中小企業へ転職。創業期のNO.2として組織創りに

取り組み、自社および他社の人財育成の支援を担当。その経験を活かし、人がポテンシャルを発揮しイキイキと働ける環境創りの支援を使命とするため現職へ。現在は、エナジャイザーのプロファイラーとして約12万人以上のデータを解析している。






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